企業にとって、継続的な売上と信頼関係を築ける顧客の存在は極めて重要です。
とりわけ、企業やブランドに強い愛着を持ち、繰り返し購入をしてくれる「ロイヤルカスタマー(Loyal Customer)」は、売上への貢献度が高く、競合への離脱リスクも低い理想的な存在といえるでしょう。
しかし、こうした顧客を一朝一夕に獲得できるわけではありません。
本記事では、ロイヤルカスタマーの定義やメリット、企業にもたらすメリットに加えて、実際に育成するための戦略について詳しく解説します。
ロイヤルカスタマーとは?|企業に信頼を寄せている顧客
ロイヤルカスタマーとは、単に購入頻度や購入金額が多い優良顧客を指すものではなく、企業やブランドに対して深い信頼と愛着を持ち、継続的に支持を寄せてくれる存在のことです。
企業視点で見ると、ロイヤルカスタマーは売上や利益への貢献度が高く、他社への乗りかえが起こりにくいという特徴があります。
このようなロイヤリティの高い顧客を育て、関係を維持していくには、良質な商品・サービスの提供だけでなく、きめ細かなコミュニケーションや顧客体験(CX)の向上、CRM(顧客関係管理)に基づいたロイヤリティ施策の継続が不可欠です。
関連記事:ロイヤリティプログラムとは?種類や導入のメリット・デメリットを解説
ロイヤルカスタマーを重視すべき理由
ロイヤルカスタマーが注目される背景には、「新規顧客の獲得が難しくなっている」という市場環境の変化があります。
日本では少子高齢化や人口減少が加速し、消費者の絶対数そのものが減っているため、市場全体が縮小しています。こうした状況下では、広告やキャンペーンによる新規顧客獲得の効果にも限界があり、企業間での顧客の奪い合いが激化しているのが現状です。
さらに、モノやサービスが溢れる成熟市場においては、商品スペックや機能だけで他社と差別化を図ることが難しくなりました。
多くの企業が同様の開発力を持ち、類似した製品やサービスを提供しているため、性能や価格といった表面的な要素では顧客の選定理由になりにくくなっています。その結果、「誰に選ばれるか」よりも「誰に選ばれ続けるか」が重要視されるようになりました。
こうした背景から、顧客中心主義(カスタマー・セントリック)が現代マーケティングの主流となりつつあります。顧客の課題や期待に寄りそい、的確かつ迅速に価値を提供していく姿勢が、CX(顧客体験)の向上につながり、結果としてLTV(顧客生涯価値)の最大化につながります。
加えて、ビジネスモデルそのものが変化している点も見逃せません。かつては「買い切り型」が主流だった製品・サービスも、現在では「定額制」「サブスクリプション型」へと移行しています。継続利用を前提とするモデルは、利用を続けるか否かの判断権が常に顧客側にあります。つまり、満足度や期待値を裏切れば、すぐに他社サービスへ乗りかえられてしまうのです。
だからこそ、CXを高めてロイヤリティを育み、顧客に「また使いたい」「人に勧めたい」と思ってもらうことが不可欠です。
優良顧客との違い
ロイヤルカスタマーと優良顧客は混同されやすい概念ですが、両者には明確な違いがあります。
最大のポイントは、単なる売上貢献だけではなく、「企業やブランドに対する信頼や愛着」があるかどうかです。この“信頼”や“愛着”を可視化した概念が「顧客ロイヤリティ(Customer Loyalty)」であり、ロイヤルカスタマーの本質を理解するうえで欠かせない指標といえます。
顧客ロイヤリティには大きく分けて3つの側面が存在します。
1つ目は「心理ロイヤリティ」です。これは企業やブランドに対するポジティブな感情、いわば“好き”や“信頼している”といった内面的な態度を指します。
心理ロイヤリティが高い顧客は、価格や利便性などの外的要因よりも、ブランドへの思い入れを優先し、かんたんには他社へと流れていきません。
2つ目は「行動ロイヤリティ」です。これは感情ではなく、実際の行動に表れるロイヤリティを意味します。
たとえば、定期的なリピート購入や店舗訪問、メールマガジンの購読、SNSでのシェアやイベント参加など、顧客が主体的に関与している状態が該当します。
3つ目は「経済ロイヤリティ」です。購入金額や頻度、年間取引額、継続年数などが該当します。経済的な貢献度が高い顧客は、当然ながら売上や利益へのインパクトも大きく、優良顧客とされやすい存在です。
ただし、経済ロイヤリティだけが高い顧客は、競合他社の価格や利便性によってかんたんに離脱するリスクがあります。
一方で、心理ロイヤリティと行動ロイヤリティも併せ持つ顧客は、多少の不便や価格差があっても関係を維持しようとするため、真の意味でのロイヤルカスタマーと呼ぶことができます。
ロイヤルカスタマーを持つメリット
ロイヤルカスタマーは、単に継続的に購入してくれるだけではなく、企業に対してさまざまなプラスの影響を与える存在です。
ここでは、企業がロイヤルカスタマーを獲得・維持するメリットを紹介します。
売上が安定する
ロイヤルカスタマーの存在は、売上の安定に直結します。なぜなら、彼らは長期的に自社商品やサービスを利用し続けてくれるうえに、自らのニーズや課題を明確に伝えてくれるからです。
とりわけBtoBの領域では、単に好意的なコメントや他社への推奨にとどまらず、企業とのパートナー的な関係を築き、共に製品やサービスをよりよくする議論に参加してくれるケースもあります。
顧客が情報を発信してくれる
ロイヤルカスタマーは、自社の商品やサービスに対する好意を積極的に発信してくれる傾向があります。
SNSや口コミ、レビューサイトなどでポジティブな発言をしてくれることも多く、企業にとっては広告以上の影響力を持つ「生活者発信型のプロモーション」となります。
新たな顧客獲得につながる
ロイヤルカスタマーの影響力は、既存の売上や満足度の向上にとどまりません。自らの体験に基づいて、友人や知人、同僚といった周囲の人々に自社の製品やサービスをすすめてくれることがあります。
とくに、親しい人物からの紹介は、通常の広告よりも受け手に安心感を与えやすく、購買行動につながる可能性が高まります。
ロイヤルカスタマー育成のための戦略のポイント
ロイヤルカスタマーは、単なるリピーターにとどまらず、ブランドの価値を周囲に伝え、新たな顧客を呼び込む起点となる存在です。
ここでは、ロイヤルカスタマーを効果的に育てていくために、企業が実践すべき主要な戦略を解説します。
ロイヤルカスタマーの把握
ロイヤルカスタマー育成では、自社にとっての「真のロイヤルカスタマー」が誰であるかを明確にすることが先決です。
顧客の購買行動やブランドへの愛着を、LTV(ライフタイムバリュー)とNPS(ネットプロモータースコア)という2つの指標を使って可視化できます。
LTVは顧客一人あたりが企業にもたらす累積的な利益を示し、NPSは「この商品を友人や同僚にすすめたいと思うか?」という質問に対する0~10点のスコアから、顧客のロイヤリティを数値化する仕組みです。
この2軸で顧客を分類すると、LTVもNPSも高い「真のロイヤルカスタマー」に加えて、現時点では購入金額が少ないもののロイヤリティの高い「潜在的ロイヤルカスタマー」も見えてきます。
CRMとの連携
顧客との関係性を継続的に強化し、「他社ではなく自社を選び続けてもらう」ためには、CRM(顧客関係管理)とロイヤリティ施策を密接に連携させることが欠かせません。その中心的な役割を果たすのが、ロイヤリティプログラムです。
単なるポイント付与ではなく、「また利用したい」と思わせる複合的な価値の提供が必要です。
たとえば、以下のような方法があります。
- 金銭的価値:割引やポイントによる「お得感」
- 利便的価値:手間のかからない利用体験やサービス設計
- 心理的価値:VIP感や所属意識を得られる体験
これらの価値を高いレベルで実現することで、顧客の定着とLTVの最大化を実現できます。
関連記事:CRMとは?機能や生まれた背景・メリットを徹底解説
来店・購入時のポイントをデジタル管理なら、「STORES ロイヤリティ」
部門ごとに対応策を考える
ロイヤルカスタマーの育成は、マーケティング部門だけでなく、企業全体で取り組むべき課題です。セールスや開発、カスタマーサポートなど各部門が、顧客との接点をもとに改善策を講じることで、顧客体験(CX)の向上につながります。
たとえば、NPSが低い顧客層に対しては、「製品に満足していないのか」「対応が遅いと感じているのか」など、複数の観点から要因を分析し、それぞれの部門が具体的なアクションを検討することが求められます。
コミュニティマーケティングを利用する
コミュニティマーケティングも、ロイヤルカスタマーの育成において大きな効果を発揮します。これは、自社の製品やサービスに共感し、支持してくれる顧客を集めて形成するファンコミュニティを活用したマーケティング手法です。
たとえば、製品のユーザー同士が交流できるオンラインフォーラムや、定期的なリアルイベント、限定特典などを提供することで、顧客との結びつきが強化され、心理的ロイヤリティが高まります。さらに、こうしたコミュニティの中では自発的に情報発信がおこなわれるようになり、新たな顧客を巻き込む「推奨の連鎖」が起こることもあります。
まとめ
ロイヤルカスタマーは、単なるリピーターや売上貢献度の高い優良顧客とは異なり、企業やブランドに対する深い信頼と愛着を持つ存在です。
継続的な売上の柱となるだけでなく、自社へのフィードバックや情報発信を通じて商品・サービスの向上にも貢献し、新たな顧客を呼び込む力をも備えています。
こうしたロイヤルカスタマーを育成・維持していくには、LTVやNPSなどのデータに基づく顧客分析、CRMと連携したロイヤリティ施策の構築、部門横断でのCX改善、さらにはコミュニティマーケティングによるファン化の促進が重要です。
顧客と真摯に向き合い、継続的な信頼と共感を得られる企業こそが、今後の市場で高い競争力を持つことができるでしょう。