飲食業界は競争が激しく、味やサービスだけで集客を維持するのが難しい側面があります。SNSの普及や生活スタイルの多様化により、お客さまの選択肢はかつてないほど広がっています。その中で「選ばれる飲食店」になるためには、戦略的なマーケティングの実践が不可欠です。
本記事では、飲食店がマーケティングをおこなうべき理由をはじめ、効果的な手法9選と実際の成功事例を交えて、マーケティング施策をどのように実践していくべきかを解説します。
なぜ飲食店にとってマーケティングが重要なのか?
マーケティングとは、企業がお客さまのニーズを理解し、それにこたえる製品やサービスを提供することで、お客さまとの関係を構築する一連の活動のことです。ひとことで表現するなら「売れる仕組み作り」といえるでしょう。
商品やサービスをただ提供するだけでなく、どのようにお客さまへ届け、選ばれ、繰り返し利用してもらうかという一連のプロセスを設計するのがマーケティングの役割です。
飲食店のマーケティングには、市場調査によるニーズの把握、メニュー開発、ブランディング、SNSでの集客施策、キャンペーンなど、さまざまな活動が含まれます。いずれもお客さまの存在を中心に据え、「何を提供すれば喜ばれるのか」「どうすれば来店につながるのか」を考える視点から設計します。
現代では消費者の価値観や生活スタイルは変化し、好みも多様化しています。こうした時代の中で飲食店が生き残り、成長するためには、時流を捉えた柔軟なマーケティング戦略が欠かせません。
飲食店のマーケティングで重視される「CRM」とは
「CRM」とは、Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の略で、日本語では「顧客関係管理」と訳されます。これは、お客さま一人ひとりとの関係を長期的に維持・発展させることを目的とし、飲食店をはじめ多くの業種で重要視されている経営手法です。
特に飲食店におけるCRMは、来店したお客さまが再来店し、さらにファンや常連として定着してもらうための施策として活用します。
CRMで管理する情報に挙げられるのは、年齢・性別・居住地などの基本属性に加え、来店頻度や利用金額、来店時の注文傾向、アレルギーや嗜好などの項目です。
情報を一元的に蓄積・分析することで、お客さま一人ひとりに最適なメニューの提案や誕生日クーポン、ポイント施策などパーソナライズされたアプローチが実現します。
またCRMによって得られたデータは、新商品開発やキャンペーン設計、営業時間の最適化など、経営判断にも活用できます。たとえば「平日夜の来店が多い20代女性」に向けた新メニューを打ち出したり、「特定の時間帯に来店する常連客」に対して特別な接客をおこなったりといった差別化も可能になるでしょう。
飲食店がとるべきマーケティング戦略とは
飲食店が安定した経営を続けるためには、おいしい料理を提供するだけではなく、自店の強みとニーズを把握し、それにもとづいたマーケティング戦略を立てることが欠かせません。そのためには、店舗やお客さまに関する情報を「5W2H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・いくらで)」の視点で整理し、課題と機会を明確にすることが重要です。
以下では、マーケティング戦略を立てるための具体的な分析手順と、分析結果を売上アップにつなげる施策の考え方を解説します。
①お店の特徴を分析する
マーケティング戦略を立てる前提として、自店舗の特徴を把握することが必須です。分析にあたっては以下のポイントを明確にしましょう。
- 立地:駅近か住宅街か、観光地かオフィス街かなど、周辺環境から来店動機を推測する
- 客層:年齢、性別、家族連れやビジネスマンなど、どんな層が来店しているか
- 時間帯別の来店傾向:ランチ需要が多いのか、ディナー主体なのか
- 人気メニュー:売上上位のメニューや、SNSで話題になりやすい商品を把握する
- 競合との違い:価格帯・コンセプト・接客スタイルなどの差別化ポイント
【モデルケース例】
- 店名:Cafe Lapis(カフェ・ラピス)
- 立地:駅から徒歩3分の商業ビル1階
- 客層:20代後半~30代前半の女性が中心。SNSでの来店が多い
- 人気メニュー:季節限定のフルーツパンケーキとラテアート付きのカフェラテ
- 時間帯傾向:平日ランチと週末の午後がピーク
- 強み:おしゃれな内装とSNS映えを意識した盛り付け、限定メニュー
②来店客の特徴を分析する
顧客理解を深めるために、来店者の傾向を定量的に分析することが重要です。以下の観点でデータを整理しましょう。
- 予約情報:どの曜日・時間帯に予約が集中しているか。予約経路(電話、Webなど)も確認
- 来店頻度:常連か一見か。リピート率が高い客層を抽出
- 利用人数と目的:1人利用、デート、女子会、家族連れなど用途の傾向
- 平均単価と客単価の分布:売上への貢献度の高いセグメントを把握
- 顧客の声:口コミ・レビュー・アンケートなどから満足度や改善点を抽出
【モデルケース例】
- 予約情報:週末14時~16時はほぼ満席、Web予約が7割を占める
- 来店頻度:週1~2回のリピーターが全体の25%
- 利用目的:SNS映えを目的にした若い女性グループやカップルが中心
- 客単価:平均1,800円。パンケーキ+ドリンクセットがよく出る
- 顧客の声:季節メニューが好評/混雑時の接客待ちが気になるという指摘も
③分析結果をもとに売上を伸ばす戦略を考える
上述の分析結果をもとに、売上を拡大するための戦略を構築します。以下にモデルケースの要点と、それに対する施策例を紹介します。
【Cafe Lapisの分析要点】
- 平日ランチの集客が課題
- SNSに強い顧客が多く、自発的な発信が多い
- 限定メニューへの反応が良い
- リピーターが全体の25%と多く、来店時間が偏っている
- 接客の効率化が課題
【戦略例】
- 平日集客強化策:SNSフォロワー限定で平日午後に使えるクーポンを配布。学生やテレワーク層に向けた「作業カフェ」プランを設ける
- 限定メニュー強化:月替わりスイーツに加えて「推し色ラテ」などテーマ性のある商品でSNS映えをさらに意識
- リピーター施策:スタンプカードアプリを導入し、来店回数に応じた特典(例:5回来店でドリンク1杯無料)を展開
- オペレーション改善:混雑時はモバイルオーダーや事前決済を活用し、接客時間を短縮
- 口コミ活用:GoogleレビューやSNS投稿を促すキャンペーンを展開。投稿者に抽選でプレゼントを用意
このように、お店の強みと課題を見極めたうえで、顧客ニーズにあわせた施策を丁寧に設計することが、飲食店におけるマーケティング成功の鍵です。
飲食店におすすめなマーケティング手法9選
ここでは、飲食店の集客力を高め、売上アップを実現するためにおすすめのマーケティング手法を9つ紹介します。
SEO対策
SEO(Search Engine Optimization)とは、Googleなどの検索エンジンで自店舗のホームページや記事が検索上位に表示されるよう最適化する取り組みを指します。具体的には、検索キーワードの選定、ページタイトルや見出しの設定、内部リンクの整理、ページ読み込み速度の向上などの技術的施策をおこないます。
飲食店においてSEO対策をおこなうことで、「地域名 + ジャンル(例:新宿 焼肉)」などの検索で上位表示され、見込み客からの認知・集客につながります。特に競合の多いエリアでは、検索結果でいかに目立てるかが集客の鍵を握ります。
また、SEOは費用対効果の高いマーケティング施策でもあります。一度上位表示されると、広告費をかけずとも長期的な集客が可能となるため、持続的な集客チャネルとして活用できます。
SEO対策の第一歩として、自店の強みや特徴を活かしたキーワード選定をおこない、ユーザーのニーズを満たすコンテンツ作成を心がけましょう。
関連リンク:SEOとは?検索上位表示を目指す対策方法を徹底解説!
MEO対策
MEO(Map Engine Optimization)とは、Googleマップなどの地図検索で店舗情報を上位に表示させるための最適化施策です。特に飲食店の場合、「駅名 + ランチ」「地域名 + カフェ」などのローカル検索からの集客が非常に多く、MEO対策はその受け皿として大きな役割を果たします。
まずは「Google ビジネスプロフィール」に正確な店舗情報(住所、営業時間、電話番号、メニュー写真など)を登録することがスタート地点です。さらに、口コミへの丁寧な返信や定期的な情報更新も、MEO効果を高める重要なポイントです。
MEO対策をおこなうことで、近隣のユーザーに効率よくリーチでき、実店舗への来店率アップに直結します。また、「Googleで予約」などの機能を活用すれば、利便性の高い予約導線を確保できます。
関連リンク
InstagramやX(Twitter)
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用者数は年々増加傾向にあります。特に総務省が実施した「令和2年通信利用動向調査」によると、全年代においてSNSの利用率が令和元年より上昇していることが明らかになっています。
具体的には、20~29歳のSNS利用率は令和元年の87.1%から令和2年には90.4%へと増加し、もっとも高い利用率を示しました。また、60代以上のシニア層においてもSNSの利用率は上昇しており、60~69歳では51.7%から60.6%へ、70~79歳では40.7%から47.5%へと拡大しています。これは、SNSが若年層だけでなくシニア層においても日常的な情報収集や交流の手段として浸透していることを示しています。
出典:総務省「令和2年通信利用動向調査の結果」(2025年5月現在)
主なSNSの特徴とターゲット層は下記のとおりです。
たとえばInstagramは、主に10代〜30代の女性ユーザーが中心です。写真・動画がメインのビジュアル重視型SNSで、料理や店内の様子を伝えるのに適しています。一方、Xは拡散性が高く、リアルタイム性を活かしたキャンペーンや投稿に強みがあります。
ターゲット層にあわせたSNS運用をおこない、自店舗に合ったSNSチャネルを選定・強化することが、効果的な集客につながります。
関連リンク:インスタグラムから直接予約を受ける方法とは?集客・売上アップを狙うコツも解説
YouTubeやTikTok
動画プラットフォームであるYouTubeとTikTokは、飲食店のストーリーや雰囲気、料理が作られる過程をダイナミックに伝えられるツールです。特に若年層に人気のTikTokでは、短時間でインパクトのある投稿が拡散されやすく、認知拡大に効果的です。
YouTubeは長尺で濃い内容の動画に向いており、店舗のこだわりやメニュー開発の裏側などを丁寧に伝えたい場合に最適です。
主なプラットフォームの特徴とターゲット層は下記のとおりです。
料理の工程紹介、スタッフ紹介、イベント風景など、動画だからこそ伝えられる魅力を活かしてファンを獲得することができます。ショート動画は撮影・編集の手間も少なく、運用のハードルも低めです。
グルメサイト
ぐるなび、食べログ、ホットペッパーグルメといったグルメサイトは、飲食店の新規顧客獲得に高い効果を発揮する媒体です。すでに「外食したい」と考えているユーザーが多く訪れるため、購買意欲の高い見込み客にアプローチしやすいという特徴があります。
グルメサイトの上位プランでは検索結果で目立つ位置に掲載されるため、視認性が高まり即効性のある集客が可能です。また、写真や口コミ、メニュー情報などを掲載することで、ユーザーに安心感や期待感を与えることができます。
ただし、月額掲載料や送客手数料などのコストが発生する点は要注意です。グルメサイト頼みにならず、SNSやGoogleビジネスプロフィールなど他の施策との併用が効果的でしょう。
ディスプレイ看板
通行人への視覚的なアプローチ手段として、ディスプレイ看板は非常に有効です。飲食店の外観に設置する黒板メニューや電飾看板、写真付きのスタンド看板は、店内の雰囲気や人気メニューを端的に伝える重要なアイキャッチとなります。
特に立地条件に左右される路面店では、道行く人の注意を引くことで、偶発的な来店=「フラッと客」の獲得が見込めるでしょう。看板のデザインや情報の更新頻度を高めることで、常に新鮮な印象を与え、リピーターの来店動機づくりにもつながります。
チラシ配り・ポスティング
地域密着型のマーケティングとして有効なのが、チラシの配布やポスティングです。店舗周辺の住宅やオフィスに向けて、手渡しまたは郵送でチラシを配ることで、直接的にターゲット層へアプローチできます。
特に、割引クーポンやランチメニューなどの即効性のある情報を組み合わせることで、高い反応率が期待できます。地域住民への認知度向上を目的としたキャンペーンやイベント告知に活用することも可能です。
ダイレクトメール
既存顧客やリピーターに向けた施策として有効なのが、ダイレクトメール(DM)の活用です。メールや郵送で個別にクーポンやキャンペーン情報を届けることで、来店動機を生み出すことができます。
誕生日や記念日にあわせてパーソナライズされたDMは、お客さまとの関係性を強化し、ロイヤルカスタマー化にも貢献します。メール配信ツールを活用すれば、セグメント配信や配信効果の分析も可能です。
プレスリリース
新店舗のオープンや新メニューの発表など、話題性のある情報はプレスリリースとしてメディアに発信することで、広範な認知拡大が狙えます。飲食系のWebメディアや地元情報誌、業界ニュースサイトへの掲載は、新規顧客の獲得にもつながるでしょう。
プレスリリースは広告と異なり、信頼性の高い「第三者評価」として伝わるため、店舗ブランディングにも効果的といえます。無料で配信できるPRサイトを活用すれば、コストをかけずに実施できる点も魅力です。
飲食店マーケティングの成功事例を紹介
本章では、実際にマーケティングを巧みに活用して成果を上げた飲食店の事例を紹介します。
「感動の肉と米」アプリ活用でリピーター獲得に成功
株式会社あみやき亭が展開する「感動の肉と米」は、「ステーキのファーストフード」をコンセプトに、東海・関東地方を中心に17店舗(※2022年11月時点)を構える飲食ブランドです。
リピーター施策として STORES ブランドアプリ を導入。従来のグループ共通アプリでは会計ごとにしかスタンプが付与されず、複数人での利用時に不公平感がありました。また、プッシュ通知も個別最適化できない点が課題でした。
STORES ブランドアプリ の導入により、「来店ごとのスタンプ付与」「ワンタイムQRコードによる不正防止」「デザインカスタマイズによる若年層アプローチ」が実現。スタンプ数に応じて「ニクコメ研修生」から「ニクコメ会長」まで8段階の役職制度を設け、楽しみながら継続利用できる仕組みづくりに成功しました。
関連リンク:STORES ブランドアプリ 導入事例「肉と米」
「Far Yeast Brewing」ネットとリアルの連携でファンを獲得!
Far Yeast Brewing株式会社は、「Democratizing beer(ビールの多様性と豊かさをもう一度取り戻す)」をミッションに掲げ、クラフトビールの製造・販売や直営飲食店の運営を行う企業です。山梨県北都留郡小菅村の「源流醸造所」やベルギーでの契約醸造を通じ、独自性のあるビールを国内外へ届けています。
同社では、STORES ネットショップ を活用し、リアルイベントとネットショップを連動させる販売戦略を実施。イベントで出会ったお客さまにネットショップで使えるクーポンを配布し、重たい瓶を持ち帰らずとも購入できる再訪機会を創出しています。2024年4月からの角打ちイベントでは、このクーポン経由の購入が増加し、効果を実感しています。
関連リンク:STORES ブランドアプリ 導入事例「Far Yeast Brewing」
コーヒー体験をアプリでつなぐ ウッドベリーコーヒーのOMO戦略
株式会社ウッドベリーコーヒーは、東京を中心に7店舗を展開するスペシャルティコーヒー専門店です。同社では、実店舗での強みを活かしながら、オンラインとの統合によってさらなる成長を目指し、STORES ブランドアプリ を導入しました。
店舗で味わったコーヒー豆の記憶は、時間が経つと忘れられてしまうこともあります。そうした課題に対し、アプリ上での購買履歴を活用することで、来店時に飲んだ豆を後からネットショップで再購入できる仕組みを実現。「この前のコーヒーをまた飲みたい」というお客さまのニーズに応えられるようになりました。
さらに、常連客向けにポイント制度やランク制度、クーポン配布などの優遇設計を導入。オーストラリアでの「ローカル割」にインスピレーションを得た会員制度もアプリに組み込み、地域密着型の顧客との関係性を築いています。
関連リンク:STORES ブランドアプリ 導入事例「ウッドベリーコーヒー」
まとめ
飲食店の経営において、マーケティングは単なる販促活動にとどまらず、店舗の価値や魅力を的確に伝え、顧客との関係性を築いていくための「経営戦略の一部」です。競合店との差別化を図るためには、顧客データの活用、SNSでのファンづくり、地域密着型の施策など、複数の手法を組み合わせて取り組む必要があります。
自店の強みと課題を見極め、時代に即したマーケティング戦略を構築することが、飲食店の持続的な成長とリピーターの獲得につながるでしょう。