資本性劣後ローンは、企業の資金調達手段として利用されています。返済順位が劣後する特徴や、自己資本とみなされる仕組みを活かして、財務体質の改善や成長資金の確保に役立つ融資制度です。
本記事では、制度の概要からメリット・デメリット、活用のポイントまでわかりやすく解説します。資本強化や資金繰りに課題を抱える経営者の方にとって、有力な選択肢となるので、ぜひ参考にしてください。
資本性劣後ローンとは?|期限一括返済の融資
資本性劣後ローンとは、財務基盤の強化や長期的な資金支援を目的とした融資制度であり、「資本」と「劣後」の2つの特性をあわせもつ点が大きな特徴です。
「資本性」とは、金融機関や第三者から一定の条件下で「自己資本」として評価されることを意味します。帳簿上は負債となりますが、実質的に資本に近い性質を持つことが特徴です。
また、「劣後」とは、万が一企業が破綻した場合において、ほかの一般債権よりも返済の優先順位が低くなることを指します。
そのため、金融機関は企業に対して柔軟な支援が可能となり、企業は返済負担を抑えながら中長期的な成長に必要な資金を調達できます。
さらに、通常の分割返済ではなく、「期限一括返済型」であるため、借入期間中は元金の返済が不要です。これらの特徴から、スタートアップや財務改善を目指す中小企業にとって、資本性劣後ローンは有効な資金調達手段とされています。
資本性劣後ローンの概要
日本政策金融公庫などが提供する資本性劣後ローンは、主にスタートアップや中小企業の成長支援を目的とする融資制度です。借入金の一部が自己資本とみなされるため、財務体質の強化に役立ちます。
特徴的なのは、返済期限まで元金の返済が不要な「期限一括返済型」であることに加え、業績に応じた利率が設定される柔軟性がある点です。また、限度額や期間なども企業の規模や状況に応じて設定されており、長期的な資金ニーズに対応できる内容となっています。
参考:日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」(2025年7月)
資本性劣後ローン申し込みに必要なもの
資本性劣後ローンの申し込みには、事業の実態を伝える書類をしっかり準備することが重要となります。
申し込みに必要なものは、主に以下のとおりです。
- 会社案内、製品カタログなどの参考資料
- 法人の登記事項証明書
- 最新3期分の決算書・税務申告書
- 納税証明書
- 最近の試算表(決算月から時間が経っている場合)
- 設備投資を行うときは、概要のわかる資料(見積書等)
- 担保の内容がわかる資料(登記事項証明書など)
引用:日本政策金融公庫「中小企業の方」(2025年7月)
「借入申込書」などの各種書類のフォーマットは、日本政策金融公庫のホームページからダウンロードすることができます。記入例も掲載されているので、参考にしながら書類を作成することが可能です。
資本性劣後ローンを利用するメリット
資本性劣後ローンには、借入金の一部が自己資本としてみなされるという特徴があり、財務内容の改善や信用力の向上につながります。そのほかにも、さまざまなメリットがあるため、ご紹介します。
借入期間中に元金返済の必要がない
資本性劣後ローンの最大の特徴のひとつが、借入期間中は元金の返済が不要であるという点です。
通常の融資では、毎月の元金返済によって資金繰りを圧迫することがありますが。資本性劣後ローンでは「期限一括返済型」が採用されており、返済は契約期間終了時にまとめておこなう形式です。
そのため、借入期間中は手元資金を事業の運転資金や投資にあてることが可能であり、成長段階にある企業やスタートアップにとっては、非常に有利な融資制度といえます。資金繰りの安定を図りながら、収益化を目指す企業にとっては強力な支援となるでしょう。
借入利率の見直しがある
資本性劣後ローンでは、借入時に決定した利率が固定されるわけではなく、企業の業績や財務状況に応じて利率の見直しがおこなわれる仕組みが導入されています。直近の業績を示す税引後当期純利益が0円以上になった場合には、利率が引き上げられます。
一方で、税引後当期純利益が0円未満の時期には、低い金利が適用されるため、企業にとって無理のない返済が可能です。このような柔軟な金利設定により、経営環境の変化に応じた資金計画が立てやすくなるという利点があります。
参考:日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」(2025年7月)
借入の一部を資本とみなせる
資本性劣後ローンの大きな特長のひとつに、借入金のうち一定の条件を満たすものが「自己資本」としてみなされる点があります。これは、金融機関や第三者による財務評価において、通常の借入とは異なり、資本と同様に扱われるという意味です。
自己資本比率の向上は、企業の信用力強化につながり、将来的な追加融資の獲得や、取引先・投資家からの信頼向上にも寄与します。特に財務基盤が弱い企業にとって、この仕組みは経営の安定と成長を支える重要な要素となるでしょう。
借換に利用できる
資本性劣後ローンは、新規の資金調達だけでなく、既存の借入金の借換にも利用することが可能です。たとえば、返済負担の大きい短期借入や高金利の融資を、資本性劣後ローンに置き換えることで、資金繰りを大きく改善できるでしょう。
借換によって元金返済が猶予されることで、当面のキャッシュフローに余裕が生まれ、事業の再建や再投資に集中できる環境が整います。また、借換後の借入金が資本とみなされれば、財務指標の改善にもつながり、企業の信用力向上にも貢献するでしょう。
条件によっては低い利率になる
資本性劣後ローンは、企業の業績や財務状況に応じて利率が変動する「業績連動型金利」を採用しており、条件次第では非常に低い金利での融資を受けることが可能です。
特に設立間もないスタートアップ企業や、一時的な赤字経営の企業に対しては、年0.5%程度の低利率が適用されるケースもあります。
経営が安定するまでの資金負担を軽減し、再建や成長のための投資に資金をあてやすくなる点が大きなメリットです。この制度の柔軟性は、企業の再起や成長戦略において有効な選択肢となるでしょう。
資本性劣後ローンを利用するデメリット
資本性劣後ローンは財務改善に有効な制度ですが、すべての企業にとって容易に利用できるわけではありません。制度の特性上、金融機関や認定支援機関との連携が必要で、申請手続きに時間と労力がかかることもあります。
ここでは、資本性劣後ローンのデメリットを解説します。
審査のハードルが高い
資本性劣後ローンの利用にあたっては、一般的な融資よりも審査のハードルが高い点に注意が必要です。通常の返済能力に加え、企業の成長性や将来の収益見通し、事業の持続可能性など、定性的な要素も重視されます。
特に、自己資本として評価される性質を持つことから、金融機関側は慎重に審査をおこない、財務状況やビジネスモデルの実現可能性を厳しく確認します。
また、経営者の資質や過去の実績も評価対象となるため、形式的な申請書類だけでなく、経営全体に対する明確なビジョンが問われることになります。
事業計画書の提出が必須
資本性劣後ローンを利用するためには、詳細な事業計画書の提出が必須です。単なる資金使途の説明にとどまらず、今後の売上予測や利益計画、資金繰りの見通しまでを具体的に示す必要があります。
金融機関や支援機関は、事業計画書を通じて企業の将来性や返済能力、経営方針の妥当性を評価するため、内容が不十分であったり説得力に欠けたりすると、審査に通過しにくくなります。
専門的な知識が必要になる場合もあるため、支援機関との連携や専門家のサポートを受けながらの準備が必要です。
民間金融機関・認定支援機関とのかかわりが必要
資本性劣後ローンの利用時には、単に日本政策金融公庫に申し込むだけでなく、民間金融機関や認定経営改革等支援機関との連携が必要となります。
制度によっては、これらの機関が発行する所見書や支援計画の提出が求められ、事前相談や面談、書類作成の調整が不可欠です。
支援機関との協力が不十分であれば、制度の趣旨を十分に満たせないと判断される可能性もあるため、早めの準備と関係機関との良好な連携が重要になります。
黒字の時の金利が高い
資本性劣後ローンは、企業の業績に応じて利率が見直される「業績連動型金利制度」を採用していますが、その一方で黒字化した場合には金利が高くなるという特徴があります。
たとえば、業績が回復し利益が出ていると判断された場合、適用される金利は2.0〜3.0%程度に引き上げられることがあり、結果的に返済負担が増す可能性があります。
自己資本とみなされるメリットと引き換えに、利益水準に応じた負担を求める制度であるため、収益改善が進んだタイミングでのキャッシュフロー管理に注意が必要です。黒字経営時の資金戦略として、ほかの融資制度との比較・検討も重要となります。
借入5年間の繰り上げ返済ができない
資本性劣後ローンには、契約から5年間は原則として繰り上げ返済ができないという制約があります。融資の一部を自己資本とみなす制度であり、一定期間は資本として企業内に留まることが前提とされているためです。
資金に余裕が生まれても、借入から5年が経過するまでは元金を前倒しで返済することが認められず、資金運用の柔軟性が制限される点には注意が必要です。
また、事業が早期に成長し、高収益を得られるようになった場合でも、固定された利率での支払いが継続されることになり、金利負担が重く感じられることもあります。
資本性劣後ローン利用時の確認事項
資本性劣後ローンを利用する際は、単なる借入と違い、以下の点を事前にしっかり確認しておく必要があります。融資の利用条件に直結する重要ポイントになるので、事前に把握しておきましょう。
勘定の際の扱いに注意する
資本性劣後ローンは、会計上は「長期借入金」として固定負債に計上されますが、金融機関からは自己資本に準じて評価される特性を持ちます。通常の借入金と区別して処理することで、金融機関の評価や資金調達において有利になるでしょう。
なお、利息は損金算入可能で、返済は原則として長期間据置かれます。資本性を正しく示す勘定科目の使用が、財務戦略上の重要なポイントです。
場合によっては自己資本の加算ができない
資本性劣後ローンは一定の条件を満たせば自己資本として評価されますが、すべてのケースで加算されるわけではありません。
金融機関の融資格付けでは自己資本として扱われますが、建築業の経営事項審査や産業廃棄物処理業の認定制度など、自己資本に加算できない点があることに注意が必要です。
また、所定の劣後条項が契約書に明記されていない場合や、契約期間が短期に設定されていると、資本性として認められないこともあります。
返済確認する期限に一括返済ができない場合の取り扱いを確認する
資本性劣後ローンは、原則として借入期間満了時に元金を一括返済する仕組みです。しかし、返済期限到来時に資金状況などの理由で一括返済ができない場合もあるでしょう。
返済期限に一括返済できない場合の主な対策は以下の3点です。
- 資本性劣後ローンの借換により返済
- 民間金融機関からの融資を合算して返済
- 元金返済条件付き融資での借換により返済
これらの対策により、期限一括返済が困難な状況でも企業は戦略的に対応できます。
資本性劣後ローンを利用するのにおすすめな場合
資本性劣後ローンは、自己資本比率の低下や資金繰りの悪化に直面している企業、あるいは将来的な成長投資を予定している企業にとっては、その特性が大きなメリットです。
以下では、資本性劣後ローンの利用が特におすすめされるケースを具体的に紹介します。
自己資本比率が低い
自己資本比率が低く、財務体質に不安を抱える企業にとって、資本性劣後ローンは有効な資金調達手段です。金融機関からの通常の融資が受けにくい状況であっても、この制度を利用することで借入金の一部が自己資本とみなされ、自己資本比率の改善が期待できます。
これにより、財務健全性を高めるとともに、将来的な追加融資や取引先からの信用向上にもつながるでしょう。特に、一時的にバランスシートが悪化した企業にとって、再起のきっかけとなる制度です。
設備投資を予定している
新たな工場の建設や機械導入など、設備投資を検討している企業にとっても、資本性劣後ローンは有効な選択肢です。
通常の融資では元金返済が始まることで、投資後すぐに資金繰りが圧迫される可能性がありますが、本制度は元金返済が最終期限に一括であるため、初期の資金負担を軽減できます。
また、自己資本としての評価が得られれば、財務体質を維持しつつ大胆な投資が可能となり、中長期的な成長戦略の実行にも適した制度です。経営資源を有効に活かすためにも、投資タイミングと制度活用のバランスが鍵となります。
スタートアップ企業・ベンチャー企業
スタートアップやベンチャー企業は、創業初期で収益基盤が未確立なことが多く、通常の融資では返済能力の面で審査が厳しくなりがちです。資本性劣後ローンは、返済が最終期限に一括であるため、成長までの資金繰りに余裕を持たせることができます。
また、借入金の一部が自己資本として評価されることで、財務基盤の安定にも寄与し、外部投資家や他の金融機関からの資金調達にも好影響を与えます。成長段階での資金需要に柔軟に対応できる制度として、特に新興企業におすすめです。
借入の返済が負担になっている
既存の借入の元金返済が資金繰りを圧迫している企業にとって、資本性劣後ローンは有効な資金調達手段です。返済が最終期限に一括となるため、借入期間中は元金返済の必要がなく、日々のキャッシュフローを改善できます。
さらに、既存の短期借入や高金利の融資を本制度で借り換えることで、利息負担を抑えつつ返済の猶予期間を確保することも可能です。資金繰りが厳しい中でも、事業の立て直しや投資の余地を持たせるための選択肢として活用が期待できます。
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まとめ
資本性劣後ローンは、自己資本とみなされる特性を持ちながら、元金返済が不要な期限一括返済型の制度として、成長段階の企業や財務改善を図る事業者にとって強力な支援策となります。
日本政策金融公庫をはじめとする公的機関が提供する本制度は、金融機関からの信用力向上や資金繰りの安定にもつながり、多くの中小企業にとって有益な選択肢です。
ただし、審査の厳しさや会計上の取り扱い、返済条件など注意点も多いため、活用にあたっては制度の仕組みを十分に理解し、支援機関などと連携しながら慎重に進めることが重要です。
資本性劣後ローンを上手に活用することで、事業の持続的な成長に向けた資金戦略を実現できるでしょう。
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